大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和59年(ワ)13395号 判決 1985年7月26日

原告

医療法人中村会

被告

佐野大三郎

ほか一名

主文

一  被告佐野大三郎は、原告に対し一八〇万八五八七円及びこれに対する昭和五八年一〇月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告興和火災海上保険株式会社は、原告の被告佐野大三郎に対する本判決が確定したときは、原告に対し一八〇万八五八七円及びこれに対する昭和五八年一〇月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告両名に対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、主文第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告佐野大三郎(以下「被告佐野」という。)は、原告に対し二五六万九四一〇円及びこれに対する昭和五八年一〇月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告興和火災海上保険株式会社(以下「被告会社」という。)は、原告の被告佐野に対する本判決が確定したときは、原告に対し二五六万九四一〇円及びこれに対する昭和五八年一〇月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行の宣言。

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

昭和五八年一〇月二七日午前六時ころ、茨城県取手市新町四丁目先道路上において、原告医療法人中村会の代表者中村豊運転に係る原告所有の自家用普通乗用車(土浦三三さ二五九五号、以下「被害車両」という。)と被告佐野運転の自家用普通乗用車(品川五八ま五七四七号、以下「加害車両」という。)が正面衝突し、右両車両とも破損した。

2  責任原因

(一) 被告佐野は、守谷方面から取手市内に向けセンターラインの付設ある幅員八メートルの舗装道路を時速五〇キロメートルの速度で走行してきたが、右道路は事故現場付近で左方にカーブし、幅員も六メートルと狭く、未舗装の砂利道となるのであるから、前方を十分注意し対向被害車両と衝突を回避すべく徐行し、自車を道路の左側に十分寄せて走行すべき注意義務があるのにかかわらずこれを怠り、漫然と同一速度で道路の中央部分を走行してきたため、折から道路左側を時速二〇キロメートルの速度で走行してきた被害車両の前部中央部分に衝突し、被害車両を破損したものであるから、民法七〇九条の不法行為による損害賠償責任がある。

(二) 被告会社は、被告佐野との間で加害車両につき保険金額三〇〇万円の対物賠償責任保険契約を締結していたから、原告と被告佐野との間で損害賠償額が確定したときは、その損害賠償額を原告に支払う責任がある。

3  損害

(一) 車両修理代 一九一万九四一〇円

(二) 代車料 四五万円

原告は、本件被害車両を訴外株式会社ヤナセ千葉に修理代の見積りをさせたあと、残存価格で下取りしてもらつて新車を購入したが、その間一か月間代車を同社から提供してもらい、代車料として四五万円の債務を負担した。

(三) 弁護士費用 二〇万円

原告は、本件訴訟の提起を本件訴訟代理人に委任した際、その費用及び報酬として二〇万円を支払う旨約した。

4  結論

よつて、原告は、被告佐野に対しては民法七〇九条による損害賠償請求権に基づき、被告会社に対しては自動車保険契約による保険金請求権に基づき、各二五六万九四一〇円とこれに対する本件交通事故の日の翌日である昭和五八年一〇月二八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の(一)の事実中、被告佐野が事故当時加害車両を運転して守谷方面から取手市内方面に向け走行していたこと、事故現場付近は被告佐野の進行方向からみて左方にカーブしていることは認めるが、その余の事実は不知ないし否認する。

同2の(二)の事実中、被告佐野が被告会社との間で原告主張の保険契約を締結していたことは認めるが、被告会社に原告の被つた損害を賠償すべき責任があるとの主張は争う。

3  同3の事実はすべて不知であり、損害額は争う。

4  同4の主張は争う。

三  被告らの主張

被告佐野は、会社への出勤のため加害車両を運転し、守谷方面からセンターラインに従い道路左側を走行してきたものであるが、事故現場手前よりセンターラインが切れ道路が徐々に狭くなつていたので時速二五~三〇キロメートルに減速して走行していたにもかかわらず、中村豊がS字に湾曲している見通しの悪い道路の中央部分を時速四〇キロメートルの速度で進行してきたため、正面衝突を回避することができなかつたものである。

よつて、原告の代表者中村豊の右過失に従つた過失相殺により原告の損害は大幅に減額されるべきである。

第三証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いない。

二  そこで、本件事故発生の具体的態様と被告らの責任について判断する。

1  請求原因2の事実中、被告佐野が事故当時加害車両を運転して守谷方面から取手市内方面に向け走行していたこと、事故現場付近は被告佐野の方向からみて左側にカーブしていることは当事者間に争いない。そして、右争いない事実に成立に争いない甲第六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三、第七号証、昭和五九年四月小川徳雄が本件事故の現場付近を撮影した写真であることに争いない甲第四、第五号証の各一ないし三、原告代表者及び被告佐野本人の各尋問の結果を総合し、本件口頭弁論の全趣旨に鑑みると、本件事故現場は、取手市守谷から取手市内に通ずる一般道路上であつて、右道路守谷寄りから事故現場の手前まではセンターラインがあり、道路の幅員も約六メートルあつてほぼ簡易舗装されているが、右道路は守谷寄りからみて事故現場直前で左側にカーブしているうえ、道路の幅員も約五メートルと狭くなり、舗装のない砂利道となつていること、被告佐野は、加害車両を運転し、守谷方面から取手市内方面に向つて自車線を時速約三〇キロメートルの速度で直進走行して本件事故現場の手前付近にさしかかつたのであるが、右道路は事故現場付近で左方にカーブして見通しが悪く、しかも幅員もやや狭くなつているにもかかわらず、前方を十分注視せず、かつ、減速徐行しないまま道路中央部分よりやや反対車線側にふくらんで走行したため、折から反対側から右道路を時速約二〇キロメートルで走行してきた中村豊運転の被害車両と正面衝突するに至つたことが認められ、右認定に反する原告代表者及び被告佐野本人の各供述部分は、いずれも軽々に措信することができず、他に右認定を覆えすに足りる確証はない。

2  右事実によれば、被告佐野には、見通しのきかないカーブに差しかかつたにもかかわらず、前方を十分注意せず、かつ、減速徐行しないまま道路中央部分よりやや反対車線側にふくらんで走行した過失があることが明らかであるから、民法七〇九条により原告が被つた損害を賠償する義務があり、また、被告会社は被告佐野との間で加害車両につき保険金額三〇〇万円の対物賠償責任保険契約を締結していたことは当事者間に争いがないから、本件口頭弁論の全趣旨によると、被告会社は、原告と被告佐野との間で損害賠償額が確定したときは、右保険契約に基づき被害者である原告に対しその損害賠償額を支払う義務を負うものと解される。

三  進んで原告の被つた損害について判断する。

1  車両修理代 一九一万九四一〇円

弁論の全趣旨とこれにより真正に成立したものと認められる甲第一号証によれば、原告は、本件事故によりその所有に係る被害車両(ベンツ)を破損され、一九一万九四一〇円の修理費を負担するという損害を被つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

2  代車料 四五万円

弁論の全趣旨とこれにより真正に成立したものと認められる甲第二号証によれば、原告は、本件事故後被害車両を下取りに出して株式会社ヤナセ千葉からベンツの新車を購入したのであるが、新車を購入するまでの間業務の必要のため同社から代車を借用し、その代車料として四五万円の債務を負担することになつたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

3  過失相殺

前掲甲第三号証、同第四、第五号証の各一ないし三に原告代表者尋問の結果を総合すれば、原告の代表者中村豊は、自車の進行する道路が事故現場の手前で進行方向右側にカーブしていて見通しが悪いのにかかわらず特段の減速徐行をせず、漫然と時速二〇キロメートルの速度で走行していたため、衝突直前で加害車両を発見したが、直ちに停車するとか左にハンドルを切るとかして衝突を回避することができなかつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定の事実に前記二の1で認定した本件事故の態様を総合勘案すれば、本件事故の発生について、中村豊にも見通しの悪いカーブした道路を通行するに際し、前方の交通の安全を十分確認せず、しかも対向車との衝突を回避することができる程度に徐行しなかつた過失があつたものと推断することができるから、右過失を斟酌して、原告の損害額を三割減額するのが相当である。

4  弁護士費用

原告が本件訴訟の提起、追行を弁護士に依頼したことは弁論の全趣旨により明らかであるところ、本件事案の内容、審理の経過、認容額等に鑑みると、被告らが原告に対し賠償すべき弁護士費用は一五万円をもつて相当とする。

四  結論

以上によれば、原告の被告佐野に対する本訴請求は、前記三の1、2の合計二三六万九四一〇円の七割に相当する一六五万八五八七円と同3の一五万円の合計一八〇万八五八七円及びこれに対する本件事故発生後の昭和五八年一〇月二八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきであり、また、原告の被告会社に対する本訴請求は、原告の被告佐野に対する本判決が確定することを条件として右と同額の損害賠償額の支払を求める限度で認容すべきであるが、その余の被告らに対する請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用し、なお主文第二項については性質上仮執行の宣言を付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 塩崎勤)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例